日本学術振興会 基盤研究S 課題番号25220403

代表者挨拶

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日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(S)
「東日本大震災を契機とした震災復興学の確立」への取り組み

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1.はじめに

 東日本大震災は地震・津波・放射能汚染が同時に発生した人類史上において類を見ない巨大複合災害であり、日本以外の原発保有国等においても、今後同様の複合災害が発生することが懸念されているが,今われわれに求められていることは,東日本大震災の復興支援を行うと同時に、復旧・復興プロセスを記録すると共に体系化し、過去に世界で大震災が発生した地域(スマトラ島、四川省、ベラルーシ共和国等)の研究者と協力しつつ、震災復興学の確立を目指していくことである.さらに、その成果を国連防災戦略や世界防災会議のプロセスなどを通じて世界各国に発信し、再現性があり普遍的な復興のあり方を「福島モデル」として、今後世界でいかなる巨大複合災害が発生した場合でも適用可能となるよう浸透させ、震災復興学を通じて世界の平和と発展のために貢献することが必要なのである.
 以下、われわれがどのように「東日本大震災を契機とした震災復興学の確立」に取り組んでいこうとしているのか、その概略を説明しておきたい。

2.原子力災害の実態─双葉地区原発避難住民の帰還条件と変化する被害

fig2-1 われわれが主として研究対象とする大震災+原子力災害被災地の実態について、事故後半年を経た時点で実施した双葉8町村全世帯に対するアンケート調査結果から説明したい。この調査は福島大学うつくしまふくしま未来支援センターが双葉8町村との連携協定にもとづき、2万8千の全世帯に対して実施したものである。ここでは、本研究の主課題である「震災復興」に限定して紹介する。ここには原子力災害からの避難の特徴が明確にあらわれている。すなわち双葉8町村は、最終的には強制避難という形をとるが、それ以前に、放射線被曝を恐れ、自主的かつ分散的な避難が先行していることに注意しなければならない。そのため避難先は北海道から沖縄まで全国に分散し、避難先変更回数も5回以上が36%をしめていることである。また多世代家族が避難所や仮設住宅に受け入れられる時にバラバラになっている。故郷に帰還するかどうかについては、4分の1の世帯が「戻る気はない」と回答し、また4分の1が「他町民帰還後」と回答している。その後除染作業が進められているが、放射能除染が困難であること、国の安全宣言への不信、原発事故収束が期待できないことなどから、除染計画ができただけでは、被災住民は帰らないことを分かる。高齢者世帯については故郷への愛着のことから帰る希望が高いが、子育て世帯の約半数は「戻る気がない」と回答している。ここに原子力災害の深刻さが端的に表現されている.何年待てるのかと問えば、1~2年が最も多いが、すでに事故3年目をすぎている(図1)。

fig2-2 双葉8町村の震災復興計画はすでに策定されている。広野町や川内村のように帰還可能地域もあるが、被災地における本格的な復興事業は例えば楢葉町では3年、富岡町では5年、大熊町では10年、双葉町では10年以上という時間をまたなければならない。しかも自治体のなかで地域差がある。このことは時間軸にそって発生する被害が多層的に重なることを意味している.被災地から避難所への移動に関わり発生する第1次被害が解決しないうちに、避難所から仮設住宅に移動するに伴う第2次被害が積み重なることになる。帰還・復旧・復興事業が一律では進められず、時間軸と空間軸とを踏まえた帰還・復旧・復興支援が求められるのである。原子力災害に伴う避難は分散型であり、半数以上の世帯が集団型の仮設住宅ではなく、「みなし仮設」としての民間借上住宅で暮らしている。現時点では第2次被害が中心となっており、高齢者を先頭に日常的な生甲斐をもつのか、分断されたコミュニティをどのように修復するのか、心のかべをもつ福島県民のケアをどのように行うのか、目前の課題が大きく被さっている。第3次被害は仮設住宅から復興住宅に移行する時期に顕在化する。直接帰還できない町村は、暫定措置として他町村に町外コミュニティを形成することになっている。日本ではあまり使われていない「内国避難民」の実態がここにあるのである。また中間貯蔵施設については、風評の固定化につながりかねない危惧がある(図2)。

3.震災復興支援学への接近方法─研究の着想と支援の原則

fig2-3 本研究の着想に至った経緯については,以下のとおりである.今回の研究チームはすべて福島県内に居住あるいは勤務するうつくしまふくしま未来支援センターの特任教員を中心に構成している。私自身も原子力事故以降、低線量被曝をふくしまにおいて受け続けており、また日本学術会議の正会員としてかかわっており、学術会議全体の意向を正面か受けとめながら、学術の観点から支援活動のあり方を試行錯誤してきた。学術フォーラム等での報告だけでなく、日本学術会議の「緊急提言」の素案作りにもかかわり、また32年間にわたる福島県内での地域調査や貢献活動から得られる知見にもとづき、私なりの復旧復興7原則を提起した(図3)。
 
 
 
 
 
 
 

fig2-4 図4は研究代表者の考えたとしての7原則である。紙数の関係から詳細には紹介できないが、この7原則を現場において活かすべく、2011年5月に発足した福島県復興ビジョン検討委員会に参加し、復興ビジョンの基本的な理念の策定に反映した。福島県復興ビジョンの基本的な理念の「原子力に依存しない社会」、いわゆる「脱原発」の考え方が、第1番目として盛り込まれた。この基本理念は福島県震災復興計画や福島県総合計画(改定版)に引き継がれており、被災町村の復興計画にも影響を与えている(図4)。
こうした原則を学術の世界に訴えるとともに、現場の復旧・復興に役立つべく、関係市町村の震災復興計画策定に委員長等としてかかわった。またこうした流れのなかで、福島大学長から未来支援センターのセンターを委嘱され、また国からの補助金をえて、センターの立ち上げと、復旧復興支援に直接関わった。その際、15名の専任の特任教員を採用することができ、9つのプロジェクトを動かして来た。
 
 
 

fig2-5 その成果は図5の通りであり、原子力災害をともなう震災復興支援には、こうした活動から、概ね4つのステップが考えられるとことに至っている。第1ステップは放射能測定です。すべてがここから始まるといっても過言ではない。第2ステップは生活インフラの整備、第3ステップはきずなの回復、第4ステップは人材育成と計画づくりである。この4つのステップは第1~3次被害と密接にかかわっている。こうした取り組みは、国内よりも国際的に関心がもたれ、国際シンポジウムを通じて、世界銀行における教訓集や国連国際防災計画における事前復興のあり方として、具体的な提案をしていくことにしている。

4.震災復興学の体系化に向けて

fig2-6 では本研究は一体何を目指しているのか、私たちは地震・津波・原子力災害・風評被害の4つの被害実態を、まず明確することが出発点となる。これを4つのステップに沿いながら、「支援知」をまとめ、これを「震災復興学」の確立に向けて、研究として活かしいくことが求められている。ポイントは「支援知」である。支援の第1は除染に正しい情報の整理であり、そのためには放射能を測定する器具を欠かすことができない。また福島以外からではなかなか調査しづらい、特に双葉郡避難者のパネル調査を重点におこなうことが求められており、それがふくしまで支援活動を研究するわたしたちに課された責務であると考えている。震災復興学は、減災と地域再生プログラムを確立するだけでなく、被災者の内国避難民化を阻止できるような支援研究とならなければならない。それは複合災害発生時のモデル化ということにもつながっているのである(図6)。
 
 
 

fig2-7 震災復興学は、したがって多様な「災害」対応し、地域と取り戻し、それらを踏まえて事前復興へと繋がっていく成果を求められることになる。この成果は世界の平和と未来の地球に向けての意義を持っている。例えば災害難民予防のための提言への展望や、持続可能な地球をどのように学術として考えていくのか、さらにどのように行動していくのかというFuture Earthの取り組みに繋げていきたい(図7)。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

fig2-8 震災復興学確立に向けての研究ステップについては、5年間の研究計画にそうが、研究計画をさらに現時点において改訂したものである。まずは実態を明らかにする、次いで国内外の経験や対応を明らかにする、そして復興プロセスのモデル化を行う。さらに教育プログラムへと展開し、最終年度には復旧・復興プロセスの体系化と世界への発信、そして世界科学者集団が提起しているFuture Earthへの展開を展望している(図8)。

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